All about ThinkPad 1991-1998とは何か

不定期コラム Vol.648
2002/03/15作成


かつて、短期間、書籍売り場に並んだ高めで分厚い書籍が
ありました。通称、ThinkPad本、"All about ThinkPad 1991-1998"です。

装丁も含めての情報は下記にあります。
http://www-6.ibm.com/jp/pc/thinkpad/book.html
 ThinkPadのすべてをまとめた本、"All about ThinkPad"発売


このAll about ThinkPad 1991-1998について、触れたのが3/7です。

その後、3/9のThinkPad Clubの管理人のOZAKI'Sさんの口火の効果で
あれよあれよという間に復刊コムで投票票数が伸びて増えています。

まことに恐れ入りました。運動支援を兼ねて、あの本のことを振り返っ
てみましょう。表に出せない情報もあるので、そういうのは除いて、ですが。

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あれは1996年の初冬の頃、現在は携帯PC HDD換装の部屋
開いているECHO氏からのメールが発端でした。その内容は、
1997/4に「All about ThinkPad(仮題)」の書籍を出すので、ユー
ザー限定の会議室(パティオというサービスです)に
お集まりいただけないか、というお誘いでした。

会議室へは当時のNIFTYのFIBMTPやFPCMというフォーラムの
アクティブなメンバーを中心にお招きがあり、追加の人選の推薦
とか、ソフトバンクの編集者も交え、話は色々と出ました。

当時はインターネットはまだ一般ユーザーには縁が遠い話で、まだ
まだパソコン通信の方が優勢でした。私もNIFTYべったりで、
インターネットには敵意すら持っていました。

当時NEC系のPC-VAN(?)と富士通、日商岩井の折半出資会社の
NIFTYで熾烈な会員数競争が行われていました。しかしNECは
会員数は互角でも、PC98以外の情報は少なく、ThinkPadに関する
情報はNIFTYのFIBMTPに集中して集まってくる状態でした。まぁ
今のThinkPad Clubのようなものが会員制サイトであった、
という感じです。

パソコン通信は2400bps程度のモデムでテキスト情報をやり取り
するのが主でした。もちろんプログラムをアップロード、ダウンロード
する仕掛けもありましたし、当時の私としては満足していました。


NIFTYには会員なら誰でも参加できるフォーラムと呼ばれる会議室
やデータライブラリーから成る組織と、ユーザーをパスワードで限定
した会議室、パティオ、等がありました。All about ThinkPadの作成は
このパティオ上で行われました。首都圏から遠距離の方も居て、
出版記念慰労会で初めて顔を合わせたメンバーも多数いました。
実際、私もオフ会とかはあまり熱心な方ではありませんでした。

執筆を始めていくと、構成も二転三転でスケジュールもどんどん
遅れていきました。そうこうしているうちに、当初刊行予定の
1997年春になり、中心人物の一人がプライベートな件で抜ける事態も
発生しました。人生の大事ですからこれは仕方ありませんでした。

彼が抜けたことで、編集氏と各執筆者間の
パイプに目詰まりが起き易くなった、という点が問題でした。
(まぁ私だけの問題だったのかもしれませんけど)

出来あがったAll about ThinkPad 1991-1998の第一部は、
各モデル(シリーズ)の位置付け・歴史や細かい情報について
述べられているのですが、このパートの作成は難航しました。

セグメント化されているシリーズ毎に執筆者を割り当て、複数の
モデルについて、シリーズの位置付け、そのモデルの位置付け、
仕様、その他、FAQ的な内容を盛りこむことになりました。

始まったのはよいのですが、最初からどの項目を盛りこもうと決まって
いた訳ではなく、試行錯誤的にやっていました。そのため、全体を
通して、今、見返して見ると、書かれている内容に執筆者ごとに
バラツキがあるかもしれません。執筆者の個性と言い訳しておきましょう。
厳格な雛型があった訳ではありませんので。


昔から説明が多くてくどいのが私の文章の特徴ですが、編集氏に
何度も駄目出しを受けました。最後は私がプッツンし、梅雨の頃に
絶縁を宣言し、パティオを一度抜けました。

NIFTYは言うまでもなく、ThinkPad Clubその他で色々とトラブルを
起してきた血の気の多さはそう簡単に直りません。仲直りには色々と
ご苦労をかけた人がいたのですが。...結局、夏休みに北海道ツーリ
ングをして冷却期間を置いた後、作成作業に復帰しました。

当時のThinkPadは現在のようにビジネス向けという風に割り切ってなく
色々なモデルを異なるユーザーのいる市場にセグメント化(分化)した
モデルを投入する形を取っていました。個人ユーザーのアクティブ(発言
の多いユーザー)は個人向けモデルのサブノートや560系のユーザーが
多く、ビジネスモデルの300系ユーザーが少なかったのが復帰ができた
要因です。まぁあの時の事ではあちこち迷惑をかけてます。
「反省」モード。

編集氏もThinkPadやIBMの製品に特別に詳しい訳ではなく、いわゆる
普通の人間にいかにマニア語を翻訳して表現するか、あるいは、暗黙の
了解をいかに説明するか、といった点ですったもんだしました。編集氏が
ThinkPadの熱心なマニアなら作成は進んだのかもしれませんが、その分、
一般的なユーザーには判らない本になっていたかもしれません。

くどい編集氏の質問に辟易してバッサリ、カットした内容も結構
あります。それこそオタッキーな内容も多々あったのでしょうが。
結果としてできあがったものは、中庸よりちょっとばかり
マニアックなものになったのではと思います。

第一部は秋以降に急速に原稿の仕上げが進みました。
原稿を会議室に書きこむと、編集氏から質問や訂正意見が出、
それを直した原稿を書きこむと更に修正要求が入る、という
繰り返しが延々と続きました。最後は時間切れでそのまま、とか
ページ数が不足しそうなのでカットされた原稿とか色々ありました。


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第一部が難航している間もIBMへの取材は行われていたようです。第三
部を成すIBMへの取材は、まずは取材してきたテープをテキストにすると
ころから始まりました。本になった部分以外にもオフレコで公表できない
話が色々とあったと思います。当時のパティオの記録は全て保存してあり
ますが膨大で、改めて見返すには、かなりの時間が必要です。

All about ThinkPad 1991-1998以前にもサブノートを中心に解説書は
幾つか出ていました。All about ThinkPad 1991-1998が画期的なのは
ユーザーの使いこなしのテクニックを中心にした従来のマニュアル本に
ユーザー側が調べたアンオフィシャルだったスペック面の補強やFAQを
追加しただけでなく、「ここまで出しちゃっていいの?」とパティオ上の
テープから起した生原稿で、我々が驚くほどの日本IBMからの
積極的な情報開示が追加されていた点にあります。

All about ThinkPad 1991-1998の発刊の端緒はソフトバンクの編集者に
IBMの人間が、「ThinkPadが登場して○年経つ。色々なモデルがあるから、
ここらで集大成の百科辞典的な書籍が欲しいね」といったニュアンスの発言
をしたあたりだったと思います。そういう訳のせいかは判りませんが、今まで
NIFTYの会議室や雑誌の記事でチラッ、チラッと出て来ていたThinkPadの「
過剰」といえるほどの「頑丈」さやキーボードや実装技術、ディスプレイやバッ
テリーに関する情報がオープンにされました。そこには、ここまで開示しても
他社は一朝一夕で追いつけない、といった自信も感じられました。

会議室で匿名で参加されていて、コソっと情報を開示してくれたIBM社員も
含めて、色々なセクションの方が表に出て、当時のThinkPadの秘密につい
て語っています。各分野における困難の突破の仕方の説明や
工夫の解説は、一つ一つのエピソードが各々、NHKの
「プロジェクトX」を構成できる内容を持っていました。

ジャストA4への挑戦、とか、最高のキーボードを目指して、
長時間駆動の見果てぬ夢、といったタイトルでしょうか。

「プロジェクトX」で紹介されたVHSの開発物語が映画化されるようですが、
ThinkPadのストーリーも、それに匹敵する内容、分量だと思います。

IBM FORUM 2002の会場で流れていたThinkPadの開発関係のビデオを
一人立ち止まって延々と見ていたのは、懐かしさと、歳月を経て公開方法も
変わったな、と感動したからです。


All about ThinkPad 1991-1998の第二部は、ユーザーによる愛用記やサポ
ートの体験記でした。私は通常はビジネスライクな人間なので、あまり個々の
マシンに対しては思い入れがなく、ツールとして使っていただけなのですが、
当時のThinkPadユーザーのコアを成す個人ユーザーの熱い思い入れがそこ
に感じられます。

この本の製作に関してはIBMの監修・チェックも受けていますが、
特にサポートの個所でここまで書いちゃっていいの、と苦笑せざるを
得ないような個所もありました。敢えて場所は指摘しませんが。

All about ThinkPad 1991-1998の第四部は、私が主にまとめた各モデルの
資料的な内容です。元々は1995/11/05にパソコン通信のNIFTY にある
FIBMJというフォーラムに登録したTPL_V10.TXTを発展させたものです。
現在ほどビデオのチップセットの情報が公開されている訳でもなく、会議室
のログから抜き出したり、マシンを解体して調べた情報が幾つもあります。
なお、ACアダプターについては、他の方の作成されたページがあります。

紆余曲折の末、1997年末に作業は終了し、本は刊行されました。意気込み
とは裏腹に、あまり部数が伸びなかったのは前に書いた通りです。

All about ThinkPad 1991-1998を当時のまま復刊させる事には異論もある
ようです。ただあの苦痛が続いた一年を思うと改訂作業はしたくないです。
自分自身、やりたい放題できたパソコン通信上の発言や資料作成、
現在のホームページ作成に比べると、書籍の作成というのは
非常に制約が多くチェックも厳しいものがありました。


打ち上げ会は編集さん、ユーザーやIBM関係者、携技研といった人間から
成る執筆者以外にもパティオに参加していた応援団とも呼べる方々が一同に
会して結構盛りあがりました。あれはユーザーサイドとメーカーサイドのコラボ
レーション(協業)がうまくいった形だと思います。あれを見ているだけに、あの
レベルを再度構築するのは無理な気もします。長く辛い一年だったからこそ、
あれほどのモノができた、と感じます。もし当初の予定通り、三ヶ月で出版さ
れていたら、それこそ上っ面だけのパンフ集になっていたかもしれません。
でも、もう一度となると..........


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ThinkPadも最近では海外で生産したモデルが投入される事が増えています。
ThinkPad240のキーボードや、ThinkPad240 Series/570Seriesで頻発した
ディスプレイの障害等、あの当時のThinkPadユーザーからすると信じられな
い品質低下が感じられます。過去は過去としてそのままにしておく方が下手に
藪を突つくよりはいいかな、というのは穿った言い方でしょうか。

私がAll about ThinkPad 1991-1998の復刊を望むのは、ソニーのVAIOに押
されて、もはや昔のようなマインド・シェアを確保できなくなったThinkPadの
過去の栄光を、最近ThinkPadを知った人、あるいは、これからThinkPadの
ユーザーになろうか、という人に知って欲しいからです。

現在のThinkPadの姿、特に品質やs30を巡るドライバのサポートを考えれば
All about ThinkPadでThinkPadの良さを語るのは、ある意味、羊頭狗肉(=誇
大広告)なのかもしれません。ただ、現在のマイナーなThinkPadにも過去には
栄光の時代があったんだよ、こんなに信仰があったんだよ、
品質が凄かったんだよ、と(都市伝説として)伝えるためには、
あの伝説の名著が入手し易い状態にある方がベターです。


改訂新版を作成した気も多少はあります。現在のマインドシェアの低下、チャ
ンドラや翼ユーザーのマシンの更新の時期を考えると、本当に中身の濃い
1998-2002版の第一部、第二部を作成するには、ここらがギリギリの時期かな、
という気もします。触らなくなったマシンについて、後から記憶を元に原稿を書く
のはトラブルの元になりかねません。All about ThinkPad 1991-1998でも色々
とIBMに問い合わせて、それなりに厳しい内容チェックを受けています。

しかし、インターネットで個々人が気軽に情報を開示できるようになった今、
書籍という形にこだわるのが良いか、という点には否定的です。書籍はある
程度収集欲を満足させる効果はありますが、もし情報が永遠に消えないので
あれば、「紙」媒体は手間とコストがかかるだけ気乗りしません。現在の日本
IBMを叩いてもWebで公開されている以上の内容はでてこないかもしれません。
省電力やBIOS等で、個々のメーカーでの努力よりも、インテルやマイクロソフト
の音頭が強くなっているだけに、どのメーカーでも同じ、とか、チップセットは
ブラックボックスで、仮にバグがあったとしても開示できない、といった点が現
時点ですら想定できます。新しい内容はせいぜい素材面ぐらいでしょうか。
もちろん超低電圧チップとか、色々と面白い話はあるのでしょうけど。



IBMに望むのは過去に作成した特集の内容を消さずに後からでも振りかえ
る事ができるようにしていただきたい、という点です。もちろんThinkPad10周
年記念のThinkPad Value Book | Think Unthinkable という風にするのでも
いいのですが、紙にするとコストが高いです。できれば
http://www-6.ibm.com/jp/pc/thinkpad/tips/backnumber.html
 ThinkPad Weekly News Unthinkable
  を、ずっとサイト上に保存する、現行製品紹介サイトから判り易くする、
と、いった点を希望します。

更に言うなら、あの本に恥じない品質確保の努力をしろ、です。ちょっと
キツい言い方ですが。最近の障害を考えると、何だ、この「体たらく」、です。
改めてユーザー側から質問すると、何故TP240のキーボードが当初カスだった
のか、掟破りの6段キーボードにしたのは何故か、Tモデルのパームレスト
で火傷した例はないのか、とか、厳しい突っ込み記事が満載になりそうで、
ThinkPadの良さを広める、という目的からは逸脱してしまうかもしれません。


「腐ってもVAIO並み」じゃないか、とか。まぁこう書くとVAIOユーザーが怒る
のでしょうね。確かに最近のVAIOは大分マシになっているとは聞いてはいます。
ビジネス市場にVAIOが侵攻し始めている現在、昔のような圧倒的なマインド・
シェアを失っているThinkPadはできるだけ失点を少なくするしかありません。
ビジネスユーザー、プロシューマーに見放されれば"ジ・エンド"です。

最後はきついことを書いてしまいました。でも、All about VAIO noteは
作成するつもりはありませんが、All about ThinkPad はいつでも作れるよう、
ThinkPadに関してはずっとWatch し続けるつもりです。


ま、こんなところですかね。
では、投票まだの方、よろしくお願いいたします。

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