古い原稿を引っ張り出して切り貼りしていたので、改めて当時の
ログを眺めていました。下記は書籍になったものとは違うのですが
当時の私のThinkPadへの思い入れを表しているものなので、
見つけたついでに載せておきます。
あれから4年。ThinkPadも色々と変わりましたね。それでも依然と
して他社に浮気できない自分がいます。多分死ぬまで?
以下、過去のNIFTYのログから(会議室ではありません)。
この原稿をベースに多少の変更を加えてAll about ThinkPadの
序文になっています。大筋は同じなので、こちらを載せます。
03559/03559 MXC03030 バトー 私的ThinkPad概論
( 1) 97/11/16 00:47
下記はつれずれに書いたThinkad概論です。
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ThinkPad♪ThinkPad♪ThinkPad♪というアンニュイなBGMと奇麗な女性が登場し、
「大人の翼 ThinkPad」という字幕が流れるCMをご覧になった事はありますか?
ThinkPadというのはIBMのノートパソコンのブランドです。個人がパソコンを携帯
してMobiler(モバイラー)と言われる人種が登場する時代はThinkPadの前身、PS/55
noteが登場した1991年3月には夢みたいな状況でした。
現在ThinkPadは大きく分けて
・ThinkPad 7xx 企業ユース中心のハイエンド機種
・ThinkPad 3xx 企業ユース中心の普及機と低価格マルチメディア機
・ThinkPad 220/230CS/5xx 個人ユース中心のウルトラポータブル/スリム
の3つに分けられます。
ThinkPad 7xxシリーズはその当時のIBMの持てる技術を盛り込んだフラッグ
シップ・モデルです。当然高価ですがいかにもエグゼクティブ御用達という造
りはユーザーの満足を約束します。最新鋭のCPU、最高の液晶ディスプレイ、
FDDやHDD、機種によってはCD-ROMやセカンドバッテリー等のオプションを着脱
可能な収納ベイを備えます。最近は今まで考えられなかった大幅な値引き価格
で旧型が秋葉原の量販店で売られているせいか、個人ユーザーも増えてますが、
本来はCAD/CAMといったハイエンドマシンを要求する企業ユース用のマシンです。
ThinkPad 3xxシリーズはIBMの汎用機(大型コンピュータ)の端末機用途から
最近は企業に大量導入されるLAN端末まで、企業ユース中心に提供されたコスト
パーフォーマンスに優れた普及機です。新技術よりも信頼性優先で枯れた技術が
搭載されるシリーズです。最近ではこれをベースにマルチメディア化したマシン
がホームユース用に提供されています。
ThinkPad 220/230Cs/530/535Eという製品はA5ファイルサイズの一回りコンパ
クな製品で、ウルトラポータブル、あるいはサブノートと呼ばれるジャンルの
製品です。この製品分野を開拓したのは乾電池で動くパソコンとして話題をさ
らったThinkPad 220です。以来、カラー化やSVGA・Pentium化など進化し続けて
います。ウルトラポータブルな系列とは別にウルトラスリムというモデルもあり
ます。この分野の最初のものこそ日本DECでしたが、後発のThinkPad 560はその
頑丈なボディと大きな液晶ディスプレイ、キーボードでたちまち追い抜き、最近
では企業ユースにも使われています。
現在ではThinkPadのモデルは奇数で始まります。サブノートの2xxも途中で5xx
に変更されました。これはPowerPCというウインテル(マイクロソフト社の
WindowsとIntel社のCPUの組み合わせ)ではないマシンを偶数番で始まるモデル
に、という事で変更された訳ですが、PowerPC系列は8xxモデルが一時期出ただけ
で、今ではThinkPadからは姿を消してしまいました。
この他プリンター一体型のThinkPad 550BJ/555BJや主に業務向け市場に登場した
一連のタブレット型(PS/55 T22sx)、あるいはペンコンピュータ(710や730系)
が存在します。登場した時はハイエンドな価格でしたが、Windows95の発売と同
時期に値下げして爆発的に売れた分割収納されるフルサイズ・キーボードという
Track Writeキーボード、通称バタフライを搭載したThinkPad 701C/CSも特殊型の
ジャンルに入れてもいいでしょう。
現在では姿を消してしまいましたがPS/55note時代からThinkPad 720Cまで続い
たMCAという拡張スロットを持った一連のモデルも存在しました。このMCAノートは
ある意味でIBMの技術の象徴的な存在でした。(現在のThinkPadはATアーキテク
チャーに基づくモデルです)。
PS/55noteについては○頁のPS/55noteの概説を参照していただくと細かく
判りますが、ATアーキテクチャーのモデルとMCAアーキテクチャーのモデルの2
系列が存在し、ThinkPadほどモデル間の位置付けははっきりしていません。
その中でMCAノートのカラー液晶モデルはMCA系列の開発が打切りになるまでは
ThinkPad 7xxシリーズ的な位置にありました。
ThinkPadが市場で受け入れられてきた理由は何でしょう。私は用途に合わせた
各種モデルの存在と高信頼性、よく練られたデザイン性・機能性、そして進取の
精神と熱烈なファンの存在を挙げます。
用途別に存在する事は先に述べた分類で述べた通りです。色々な使いこなしを
するユーザーをできるだけ少ないモデルでカバーしようとすると、妥協点が増え
平々凡々としたモデルになってしまいます。ある用途にはそれに特化したとんがっ
た個性のモデル、そうでないとその分野で使い込むユーザーを満足させる事は
できません。ThinKPadの現在のモデル構成はこれをうまくカバーしています。
会社で使っているマシンが日本アイ・ビー・エムだから家でもThinkPadを、とか、
あるいは逆のパターンもあるでしょう。ある市場で優位に立つ事は他の市場との
相乗効果も生み出します。
高信頼性には幾つか要素があります。まずはやはり壊れにくい事です。自社で
設計・製造してきた長年の積み重ねはそれなりの効があります。またEMS(拡張
保守サービス)を始めとする保守体制の充実、かなり古いモデルでも他社に比べて
バッテリーといったオプションが入手し易い事もその一つです。
ThinKPadはジャーマングレーのモデルが2機種だけありますが、一貫して知的で
シャープなイメージを醸し出す黒いボディという統一されたイメージで通してき
ました。また1993年5月のThinkPad 720CでのTrackPointIIの採用以降、キーボード
の真ん中に赤いポッチがまさに紅一点という感じで加わって現在まで至っていま
す。シンプルでシャープなデザインは知的生産のためのツールというイメージに
ぴったりです。機能性の追及としては特にキーボードへの様々な工夫が挙げられる
ます。ThinkPad 701C/CSのTrackWrite、チルトアップするThinkPad 760シリーズ、
テスト/評価を繰り返した結果約88%の縮小率を採用したサブノートThinkPad 535の
キーボード等です。Mwaveの採用も賛否両論ありますがその一つでしょう。
ThinkPadで特質すべきは一方で企業ユース向けの手堅いモデルで販売台数を稼ぎ
ながら,他方で色々な市場開拓型マシンを出してきた事です。サブノート市場を
開拓したThinkPad 220、その流れをマニア層だけなく一般ユーザーにまで広げた
カラー液晶モデルのThinKPad 230Cs、ウルトラスリムを大ヒットさせたThinkPad
560、後継機はありませんが、プリンター内蔵のThinkPad 550BJ/555BJ、東芝の
Librettoの影に隠れてしまいましたがParmTop PC110といったモデルがそれです。
一時期より奇抜というか冒険というモデルが特にサブノート系で日本アイ・ビー・
エムから出てこない現状に一ファンとして危機感を持っている状況です。あの
ビジネスショウやデータショウで観客を黒だかりさせた興奮を巻き起こす製品が
日本アイ・ビー・エムから登場する事を願っています。
最後に熱烈なファン層です。PS/55note 5523-S発売当初は個人ユーザーも少しは
存在しましたが、それ以降ビジネスマシン的な要素が強かったPS/55note〜ThinkPad
に熱烈な個人ユーザーを呼び寄せたのはサブノートのThinkPad 220です。販売台数
的にはマニア層に売れたあと伸び悩んだとも聞いていますが、各種乾電池の比較、
巨大な電池パックや太陽電池の作成、ユーザーで作った各種ユーテリティといった
一見遊びかと思われるようなものまで含んだムーブメントを巻き起こしました。
当時はインターネットも普及しておらず、この辺の痕跡はパソコン通信のNiftyの
FIBMJ、FIBMNOTEといったフォーラムの過去ログに残っています。ThinkPad 230Cs
以降個人ユーザーは確実に増えました。昔はノートパソコンの改造など考えもつか
ない状況だったのに、HDDの換装にはじまり、はてはCPUの載せ買え、クロックアッ
プ、メーカー規格外の容量のメモリ作成までありとあらゆる分野にユーザーのチャ
レンジが繰り返されました。「人柱」と呼ばれる尊い犠牲も数知れず存在したはず
です。こういう換装や使いこなしを含んだ解説書も書店の棚でスペースを確保する
ようになり、現在では換装専門の業者も幾つか存在しています。販売台数が多くて
色々なユーザーが集まる、そして色々なノウハウが伝わる、それを元にユーザーが
更に広がる、という好循環を壊さないよう、ここでも日本アイ・ビー・エムに
期待して筆というかキーを叩くのを終わります。