何故、今でもThinkPad?


不定期コラム Vol.694
2002/05/11作成


分室で集中的に作っている夜景のページの取材の関係でなかなか
こちらに手が回りませんが、一週間に一つぐらいは更新しておかなくっ
ちゃ申し訳ない、ということで。.....とは言ってみたものの、最近はデジカメ
の方ばかり調べているのでパソコンは浦島太郎です。

某所で話題の「私が欲しいThinkPad」とかで書いてみますか。
で、書き始めて、まず最初に、何故、今でもThinkPadにこだわるのか、
という疑問に行き当たってしまいました。まずはそこを考えてみましょう。

これまた某所のアンチ・ネタのスレッドの低俗さ、激しさには辟易しますが
そういう意見もあるというのは参考になります。あそこまで偏執的にやる
のは異常だと思いますけどね。


○コストパフォーマンスの無さは致命的か? 信者が助長する?
まず叩かれているのはコストパフォーマンスの無さです。ThinkPad信者が
高くても買うからメーカーが助長するといった趣旨が多いようです。これに
対しては、単品買いする個人ユーザーならそう言うのも可能だと思います。
ただ、立場が違えば行動パターンも違います。木を見て森を見ない、という
言葉があります。カタログスペックと店頭価格だけで他社と比較するのは、
企業ユーザーに言わせれば、ThinkPadの価格をある一面からしか評価して
いないと言えます。付加価値で他社よりも高く売れる環境を用意してきた
IBMの商売のうまさ(あるいは戦略の巧みさ)と、それに乗せられている信者
の盲信といった切り方もできるかもしれませんが、現実にはまだThinkPadに
は企業の購入担当者が買いたくなるような要素が残されています。それを
見てみましょう。



○切り捨てられた個人ユーザーの怨念
以前、ThinkPad i Seriesという個人向けのシリーズがありました。日本では
個人向けでしたが、米国ではSOHO向けにも販売されました。米国に個人
向け、というか、真のホビーユースのユーザー層があるのかどうかは判りま
せんが、日本にもそういう市場があるのは判ります。ゲームや音楽といった
分野は古いマルチメディアの範疇とは言え、ビジネス向けが主体のIBMには
苦手の分野と言えなくもないです。s30の終了にはCMや特別生産といった
生産、販売管理コスト以外に、もうサポートできねぇと匙を投げたのが何とな
く感じられます。サウンド関係のドライバについては一応改善方法が出ている
ようですけどね。拡大を狙って参入した家庭向け市場だけど、結局は切り捨
てた、という構図が判ります。

本来狙うべきではない市場だった、という訳ですね。文句を言うユーザーは
買わなくて結構、ドット抜けの一つや二つでネチネチ文句を言う背伸びして
買うようなユーザーはお断り、という訳です。サポートコストを考えると、それ
はそれで良い決断と思います。後は切られたユーザーの怨念、偏執的な叩き
行為に負けない品質を出してくれるといいのですけどね。価格については、
実売価格以外のおまけをつけることで言い訳にできますし。ただ、現状は
ちょっと。煽りは放置しか手がないのですがそれにしても....。別の観点を
持つユーザー層があると説明しても馬の耳に念仏でしょう。

狙うべきで無いユーザー層に未練たらしく、まだ商品を提供しているという
意味ではRシリーズもさっさと打ちきってはどうでしょう。それとも何でもこなす
低価格のSOHO向け万能機という位置付けなのでしょうか。ThinkPad i 1400
Seriesや1200/1800 Seriesの切り開いた個人向け据え置き省スペースモデル
の代替需要を狙って、というのがメインなのでしょうか。Rシリーズでs30のよう
なドライバ関係の不具合は出ていないようですが、もしサポート上問題が多発
するようなら、もう止めちゃった方がすっきりすると思います。R Seriesはビジネ
ス向けに舵を切った以降のThinkPadではないという思いが強いですね。



○ThinkPad Qualityの低下を容認した企業ユーザーの保守的体質とIBMの甘え
最近の品質面の辛口の評価は表題を裏付けることができるかもしれません。
まぁ、腐ってもThinkPadで、他社並程度の品質はあると思いたいです。使った
ことがない、あるいは、使う気がない他社の製品と比べることができないのが
信者の痛さなのかもしれませんが、こればっかりはどうしようもないです。
他社を知らないけど→ThinkPadで間に合う→無理するこたぁ無い→ThinkPad
の、無限ループですね。



○高くても買わざるを得ない罠
実際、今まではThinkPad以外の選択肢が無いので、言い値でも仕方が無
かったというのは否定しません。サードパーティのネットワーク機器のオプ
ションの接続保証等を考えると、当時のメジャーなものを選ぶのは企業の
購入担当者としては当然のことでした。個人向けが主体のVAIOなんかを企
業で使って、もしまともに動かなかったら担当者の責任になりますし、個人
の趣味でそこまでバクチは打てません。とりあえず使えているなら、何故
変えないといけない? というのはおかしいですか? 。避難しないとまずい状況
にまでならないと腰を挙げないものです。

いざ他社に逃げ出すという時にタイタニック状態になっている可能性は否定
しません。現状は過去の名声・定評を盲信してそこにユーザーもメーカーも
安住していると言えるのかもしれません。この層が逃げ出さない限り、IBMも
おいしい商売を続けられる訳です。



○最新鋭の装備が無いと屑なのか?
DVD関係のコンポドライブやCD-RWの速度・搭載の遅さを指して攻撃する
向きもあります。ただ、企業での大量購入を考えた場合、全てのマシンに
CD-RWを搭載する必要はありません。数台あれば十分です。普通のCD-
ROMが搭載してあって、価格が下がるほうがベターです。DVD-ROMもまだ
読めなければまずいといった状況にはなっていません。もちろん、企業に
導入する場合は数年と言った周期で考えますので、最終的にDVD-ROM
が読めないとまずい状況になっている可能性は否定しませんが、今のノート
へのコンボドライブの搭載の遅れを考えるとどうでしょう。またインストール
やデータの読み出しは最悪、ネットワークで共用してしのげる環境も整いつ
つあります。個人向けのように、常に最新の性能でないと叩きが横行する
のはハイエンド機だけで、普及機は違います。VAIOでも平平凡凡とした
スペックのマシンが売れ筋の中心です。



○システマチックな拡張性・互換性
ネットワークの一部として考えた場合、ThinkPadはそれなりによくできている
と思います。
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/2002/0508/ibm2.htm
 ThinkPadの現在と未来(下)
で触れられているように、IBMはドライブベイの互換性に気を使い、複数
のモデル間でのシステマチックな運用をウリとして考えているようです。
個々に作られてモデル間の連携など考えられないVAIOに一矢報いるに
は弱いかもしれませんが、企業内での保守には便利です。まだTP570/600
シリーズがメインの私の会社ではUltraBayがメインですが、2nd HDDアダ
プターを始めとするオプションの使いまわしの便利さは実際にやった人間で
なければ判らないでしょう。個々の機器ごとでオプションが違うとか使いまわ
しができないなんてのを考えるとゾッとします。それでもUltraBay2000のカ
バーについてはちょっと文句があります。一時は市販品への換装ができな
いかと思ってゾッとしました。



○サポートの換装への寛大さ
前記に関係しますが、ドライブやHDDを自分で換装していて故障していても
故障した部位の修理はしてくれるというサポートの寛大さが今日のThinkPad
の個人ユーザーの評判を形作った要素の一つと言えるでしょう。ライバルと
して名前が挙がるVAIO、DELLでそこらへんがどこまで容認されているかは
把握できていません。VAIOに関して言えば、昔はメモリ交換すらユーザーに
よるものは認めていませんでした。ユーザーによる低コストの保守ができる
と意味で、この寛大さはありがたいです。



○汎用品の採用
新型リブレットでは3.3V 1.8"HDDというものが使われているようです。VAIO U
にも1.8"HDDが使われています。松下の新型にも3.3V 2.5"HDDが使われました。
メーカーのサポートを必要最低限にしてコストを減らしている身としては、秋葉原
等で売られているバルク品が交換パーツとして使用できないものは避けたい
です。一部のモデルだけなら、それを避ければいいのですが、他のモデルでも
特殊なパーツが使われていたら嫌ですね。リスクを避ける意味でもThinkPadの
ままにしておくのが安楽です。東芝なんかどうも特殊に偏りがちで信用できて
いません。以前はドンとしていたのですが、最近はおかしいのではないか、と。



○情報公開
他社との情報比較のページは以前に造ったきりで更新していないので、最新の
状況を把握していません。ただ、あの当時の時点でハードウェア保守マニュアルを
無償でWebサイトで公開しているようなメーカーはIBMぐらいでしょう。それによって
TP380のようなパッと見で解体が面倒なモデルでも安心してバラすことができました。
他社でそこまでやってくれているメーカーがあるのでしょうか。



○モデルが長寿である重要性
春モデル、秋モデルと大体年2回ぐらいはモデルチェンジが各社あるようです。
まぁインテルの新CPU投入サイクルにも左右される面はあるのですが。

新製品投入の度にがらりと装いを変えて新鮮度を保つ某メーカーに対して、
ThinkPadの全くの新機種の投入の速度は歯がゆいほど遅いです。しかし、企業の
購入担当者にとってモデルチェンジまでの期間が長いのは悪い話ではありません。
この点は常に最新のモデルを欲しがる個人ユーザーとは気質が違うと言えます。
むろん企業向けでもハイエンドモデルを買うような層は行動パターンが違うようですが。

企業で端末用途、ネットワーククライアントで使う場合、パソコンの減価償却期間
(現行4年、以前は6年)に合わせた運用が行われることが多いです。リースを使っ
た短縮化も一時は使用しましたが、コスト高と決算上での数字の開示でいまいち
メリットがなくなりました。クライアント単独で使うならともかく、ホスト、あるいはサー
バー上のアプリケーションとシステム一式で導入する場合は、次期システムへの
切り替え期間は長くなります。

消耗した一部分だけの入れ替え、あるいは、人員増による追加の際に、その度、
動作テストとかをしないといけないのは面倒です。新機種の導入というのは色々
と大変です。基本構成(チップセット、ビデオ、ドライバ)は同じで、CPUやHDDだけ
が違うというのが楽チンです。チップセットが変わると安定するまでは使う気に
なりません。短期間でモデル構成が変わってしまう某メーカーは確かに安いの
ですが、別の意味でコストがかかりそうです。



○過去の履歴
関連して過去に発売していたモデルのスペックが判らないメーカーも面倒です。
後になって仕様が問題になることもあるので、Webサイト等で過去のモデルが
参照できる方がベターです。むろん情報は多い方が望ましいです。某BTOメー
カーのようにほぼ皆無なのは本当に困ります。ThinkPadはそういう点でも便利
です。



○暗い液晶
最近のモデルは以前よりマシになったとの評判ですが、ThinkPadと言えば
暗い液晶というのが定評です。私は公私ともメインは液晶ディスプレイなの
ですが、そんなに明るい液晶=善なのでしょうか。シャープの外付け液晶
ディスプレイは数台買ったことがありますが、画面が明るすぎて目が疲れる
と評判があまりよくありませんでした。おまけに輝度調節もできず、CRT用の
フィルターを置いて対応した事もあります。店頭でのパッと見と、長時間、実
務で作業するのとでは評価基準が別なような気もするのですが。そういう
意味では、最近の明るくなったThinkPadの液晶に対しても、これがエスカレ
ートすると怖いな、と感じています。ThinkPadでは以前TP240で中間輝度に
するとチラつく症状がありましたので、輝度を下げて使う使い方はあまりやり
たくありません。まぁこれもモデルによって違うので一概には言えませんが、
私の見方はこうだ、というものです。



○ソフトの少なさ
これは前述のPC Watchの記事に触れられているように、企業向けでは
メーカー独自のソフトやキー操作は無用の代物です。モデルが変わる度
に新しいギミックが載っていたりしたら、その評価を考えただけでウンザリ
します。常駐モノはなるべくインストールするな、メモリを空けろ、と口すっ
ぱく社内に言っているのに、最初から常駐モノがゴテゴテ入っているので
は示しがつきません。VAIOの企業向けモデルではそんなことはないとは
思いたいですが、あれがあってこそのVAIOとか言いそうで怖いですね。
ライセンス管理の問題もあるので、プリインストールソフトも含めて、アプリ
ケーションはシステム運営側で一括して管理できる方が楽です。個々の
モデルで導入するソフトが細かく違っていては面倒です。



○IEEE1394は必要か?
ユーザーの業種にもよりますが、オフィス用途の場合、IEEE1394は不用
ですね。ビデオと繋いでどうするのでしょう。それよりもチップセットが対応
していれば、USB2.0でパソコンの周辺機器はほとんど問題ないでしょうし。
IEEE1394を使いたければVAIOかPowerBoolを買え、でいいんじゃないで
しょうか。文句を言われても、あなたはThinkPadの想定するユーザーとは
違います。他所に行ってください、でいいですね。



○初期不良率が高いか
よく引用されるVAIOの初期不良率がThinkPadに比べて大分低いという
話はいわゆる統計の罠のようです。VAIO関係の掲示板やスレッドでも
サポートが初期不良と認めないでもめている話が散見されますし。統計
の数字の根拠がサポートが自分で初期不良と認めたもの、というので
あれば数字操作も簡単でしょう。常時日経パソコン満足度一位のDELL
と同じ手法ですね。数字は結果だけが一人歩きしていきます。初期不良
とも認めてもらえずサポートと遣り合うのと、初期不良なら交換してくれる
メーカーのどちらを評価すべきなのか、というと極論ですが、Tにも信者が
いればVにも信者がいます。どっちもどっちですが、根拠に使う数字が本
当に信用できるのか、というのもちょっと考えた方がいいんじゃないの、
という話です。ThinkPadも昔よりは造りが雑なので思い当たる節が無くも
無いのがこの説のいまいち弱いところです。



○無線LAN
IBMが進めている無線LANですが、企業の基幹ネットワークとして使うには
セキュリティ上の不安がまだ残っています。確かにレイアウト変更に伴なう
工事費用がなくなるかもしれないので、そういう意味では評価したいのです
が。以前行ったIBM FORUM 2002でJBCCの説明員とも話したのですが、
室内の電波環境を調べて綿密にやらないと問題が出るような話でした。
大規模な導入にはそれなりのノウハウを持った業者との協業が必要なよう
ですし、そうなってくるとコストも上がるだろう事が予想されます。第一、既に
100MbosのネットワークとGigaBitのバックボーンを構築しているのに、低速
の無線LANを導入してもね、というのがあります。ブームとしてどのモデルに
も搭載されつつあるのかもしれませんが、本音は本当に必要なの?です。
既存資産がパーになるような投資にはあまり積極的にはなれません。

モバイル用途では、ホットスポットの整備が進みつつあることもあって、
携帯用途のモデル(X/T)には搭載は構わないと思いますが、A Seriesに
標準装備が必要か、と言われるとちょっと。その分安くして、と言いたい
ですね。ファッションとして他社にもあるから、というのなら仕方ないですけど。
正直、規格がどんどん変わっていっている段階での標準搭載はどうか、と
言う気がしなくもないです。売らんかな、というのは判りますが。



○まとめ
なんせ、景気がこういう様なので、高機能、高価格には手が出ません。
今までは担当者の個人的趣味でThinkPadを選択してきましたが、最近は
例えばDELLにもデュアルポイント機があります。社内で据え置きで使う
場合はマウスでの利用がほとんどです。パームレストの割れ、発熱等の
話はよく聞きますし、全体的に品質が落ちているのなら、敢えてThinkPad
を選ぶ必要もなくなります。

それでもThinkPadを買っているのは、
1.米IBMの情報公開への信頼・信仰
2.日本IBMのHMMのWebサイトへの登録等を評価
3.UltraBay/UltraBay2000といったシステマチックな拡張性
4.モバイルしなければ頑丈な造り
5.モバイルする場合は過去のノウハウを期待して
6.TrackPoint(個人的には)。タッチパッドが無効にできるなら
 タッチパッド機でも構わない
7.Webベースの保守申し込み可能、迅速対応(但しパーツがあれば)
8.保守サポートへの信仰
9.汎用品の採用

が主な理由です。上記にはユーザーとしての立場が違えば不用な点も
あるでしょう。ただ、IBMがビジネス向けに大きく方針を転換しているので
私のようなビジネスユーザーとしては引き続いて(沈没するまで)安心して
付き合えるようです。

誰もに薦められるThinkPadから、用途が合う人間にだけ薦められる
ThinkPadへ、と私としても方針を切り替えないといけません。合わない
ユーザーに無理に薦めるのもどうか、と思いますし。無理な使い方を
していつまでも偏執狂的なクレーマーになられても困りますし。うるさい
ユーザーは切り捨てて、IBMに理解を示す甘ちゃんユーザーと共に
共存共栄と行きましょう。不具合があってもいつかは直すIBMと盲信して。

最後の部分は自虐的ですが、昔ほど信頼できない自分がいますから
これまた仕方ありません。


限られたユーザーのための限られた用途に適したビジネスマシン、
ThinkPad。

スタイリッシュ性ではVAIOに劣り、
大衆迎合度では東芝に劣り、
価格ではDELLに劣り、
アンチ度は他社を遥かに凌駕するThinkPad。

ユーザーを続けていくのも、もう大変、ですが、個人的には性に合って
いるので止められません。いわゆる腐れ縁ですかね。やれやれ。
小さい奴に関しては脱ThinkPadができるかもしれませんが。それでも
意地でもVAIOとメモリースティックは使わないでしょう(多分)。

そこそこ頑丈で、情報公開は最高で、直接頼めばサポートはまずまず。
価格は高めでもそれを納得できる人間がいるだけの中身があるマシン、
それがThinkPad。判らん奴は吼えていればいいさ、と達観しましょう。
いつか、また、IBMが小さなマシンに目を向けることを祈って。




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