デザイン編を終わるに当って、ThinkPadデザインQ&Aをまとめて
みました。IBMの公式な見解ではありませんので、そこのところは
誤解のないように。
Q1.何故「黒」か?
→「曖昧なところのない色や直線で構成された「シンプルさ」の中にこそ
プロダクト・デザインの王道がある」とIBMは考えているようです。
http://www-6.ibm.com/jp/pc/experience/design/index.html
IBM PC experience を参照してください。
Q2.何故「ずっと黒」なのか?
→IBM全体を貫くデザイン・アイデンティティーとして
スクエアなブラック・フェースのデザインというのがあるようです。
またIBMは変わらない事に価値を見出しているようです。
これは一つ前のクエスチョンで紹介したリンクに出ています。
「コンセプト いつまでも変わらない価値。IBMブランドのデザイン」
「流行に左右されない普遍性を持つこと、つまり買ってすぐに古びたりしない価値を持つこと」
その根底には
http://www-6.ibm.com/jp/design/about/identity/
IBM Design-アイデンティティ&デザイン
[そのデザインができるだけ多くの人に歓迎されることを考えて創ること]
「優れた機能的デザインは、製品の性能を向上させること、無駄な経費を
省くことにも貢献し、最終的に企業の利益に結びつくものでなければならない」」
に見える、悪く言えば「万人向け、無難、平凡」なデザイン志向、
実務志向 のためにThinkPadのデザインは極端には変わらないと言えるかもしれません。
TP770以降、C面カットが目立つデザインですが、これも対衝撃力の向上や
携帯性の向上といった実利+デザインの面での理由がしっかりと見えます。
A/T/Xモデルで共通化されたスイッチの位置など細かい変更もされています。
こういうところが玄人筋に受ける原因かもしれません。ただ、大筋では変化の
ないデザイン(どれを見ても黒い箱)というのが、変わり映えしないThinkPadという
評価を特に初心者を中心に生んでいるのも確かでしょう。
こう考えると実利+デザインを無視したと思われるs30/is30のピアノ調のデザ
インは従来の路線を一部離脱した冒険行為、跳ね上がりなのかもしれません。
Q3.「黒」で無いモデルは無いの?
→かなり初期(PS/V Visionがヒットした1993年頃)のモデルにTP330C/Csというジャー
マングレーのモデルがありました。それ以外は1999/10のThinkPad
i 1400 Series
2621モデルから2001/05頃までThinkPad i
Seriesはケースの上面やパームレスト等
をソフト・ブラック・メタリック(通称 銀鼠色)にしたモデルが幾つかあります。ビジネス
モデルでは黒なのに、基本的には同一仕様のi
Seriesでは銀鼠色という物があります。
主な双子モデルとしては
TP240<->TPi1124、TP570E<->TPi1157、X20<->TPi1620 等があります。
2001/05以降、銀鼠モデルは姿を消しています。
なお、TPi1400 2621モデル発売時にサンワサプライと組んで7色のトップカバーも
用意されました。これは1991年1月に日本でも発売されたカラフルなiMacの影響を
受けたのでしょう。実際に装着して店頭に置かれたかは不明ですが、以後、同じよ
うな試みがなかったので結果的にはうまくいかなかったのでしょう。
Q4.何故「銀鼠」モデルは消えたか?
→玄人筋には受けなかったというか、不評というのもあったのでしょうが、遠目に見ると
結局「黒」に見えてしまって、あまり変わり映えしなかったのかもしれません。
私個人はTPi1157を常用していますが、この銀鼠色は気にいっています。個人ユー
ザーでもわざわざビジネスモデルを待って買う動きがあったりで、狙ったほど初心者
層への浸透ができず、マニアからも敬遠されて、結局「黒」に戻ったようです。自分の
懐で買う事が多い個人ユーザーでは「色」も大事なポイントですものね。私のような
法人用途だと機能が要求にあえば色にはこだわっていない、という方も結構いたかも
しれません。問題は特にi Series専用モデルでのHDD障害やサウンド面の不調多発
とかで、i Series=安かろう悪かろうというイメージになってしまった事かもしれません。
製品保証の面などではi Seriesはなかなか充実していただけにもったいなかったですね。
Q5.何故「画期的」なデザインのモデルが無いのか?
→ThinkPadで画期的なデザインのモデルが無かった訳ではありません。筆頭はTP701の
バタフライキーボード(TrackWrite)ですし、ウルトラスリムのTP560もヒットしました。
ドッキングステーション式のTP570もVAIOに影響を与えたようですし。
ただTP560もTP570も他社の先行モデルがあったのは事実です。先行モデルを参考に
二番手で挽回する、いわゆる「マネ下電機」的な開発はされていないはず(少しはあるかな)、
目的、機能が同じだと最終的にはデザインは似てくる、と思いたいですね。
それはそうとして、IBMはユーザーの使い易さ、ユニバーサルデザインをIBM流に考えて
いるため、例えば操作性を犠牲にしたキーボードの小型化やディスプレイの高精細化には
制限があるようです。そのため、IBMの考える限度を越えた奇抜(?)なデザインのマシンは
登場させにくいと思われます。
http://www.zdnet.co.jp/news/0103/16/toy78.html
IBMが追求する“ユニバーサルデザイン”の姿
また最終的なThinkPadのコンロトールは指が太い外人ばかり(かな?)の米IBMが
行うため、日本国内でしか受けない小型モデルの開発は米IBMをなかなか説得、
理解させられないとかも関係しているのでしょう。
伝統的なThinkPadのキーボード配置を変更したTP240/TPi1124への強い反発とかが
有ると、6段キーボードやVAIO C1のようなワイドVGAのような機構の搭載は
ThinkPadでは難しい気がします。こういうのはデザイナーの自由な発想への制約に
なっているかもしれませんね。
レガシーデバイスの本体内の装備にこだわったのは保守的なビジネス向けが対象市場と
しては個人向けより大きいというのがあると思われます。企業はどうしても減価償却とか
の関係で数年は(最低でも帳簿上)使用することになりますので、継続使用しないといけない
過去の資産とかを考えるとどうしても前モデルとあまり変わらない「継続性」を求めてしまい
ます。この点もThinkPadのデザインを保守的にする要素なのでしょう。
尖がったデザインのs30/is30は対象をモバイルユーザーに絞り込む事で大胆なデザインに
なっています。
http://www-6.ibm.com/jp/pc/personal/support/tec/tp/s30/04.html
s30 開発者インタビュー レガシー・インターフェースよりも携帯性重視のコンセプト
対象を区切った(セグメント化)してそれに合った製品を投入するというのは以前も
行われていた訳ですが、従来よりマーケティングを重視してデザインされたモデルが
登場したのは良い事です。企業向け据え置き用途モデルは保守的に、モバイル用途
のモデルは他社(S社)に負けないデザインで勝負するとか割りきってくれるといいですね。
中間に位置するX2x/TPi1620あたりは両睨みで難しくなるかもしれませんが。
なおs30のようなレガシーフリー的なマシンをIBMが作る事を可能にした主にOS面の
時代の流れも忘れてはいけません。しょせんその時代時代の背景からは逃れないと
いう訳で。USBが本格化する前はPCカードを3枚も装着できるモバイルマシン(TP235)
がありましたが、同じくモバイル系のTP240では1枚になっているとかの事例もあります。
装備(イクイップメント)の前提が変わればそれなりにデザインも変わっていくのでしょう。
時代が変わればIBMから画期的なデザインのモデルが出る可能性も残されている、と
信じたいですね。ユニバーサルデザイン、Easy
of Useももちろん大切ではありますが。
Q6.「リチャード・サパー」の果たした役割とは?
→ThinnkPad(というか、当時はPS/55note)の最初のモデルで「黒」という方向付けをした
事ですね。それ以降もTP701、770、最近ではNetVistaまで「グル(導師)」と呼ばれる
ほどIBMのデザイン部隊に関与しているようです。スターウォーズの「ヨーダ」みたいな
位置付けでしょう。
http://japan.cnet.com/News/2000/Item/000401-1.html
IBMの『ThinkPad』が1000万台を突破
黒を基調に青、緑、赤でアクセントをつけたThinkPadのデザインは、工業デザイナー、
リチャード・スナッパーの手になるものだ。
TrackPointの赤い色を決めたのも彼の功績です。
http://www.ms-atelier.com/thinkpad/etc/design.html
thinkpad design トラックポイントの赤の色を決めたのもSapper
当時、赤い色はかなり社内でもめたらしく、いろんな色が検討されていたようですが、
そこを押し切ってSapperが絶対赤と言い切ったそうです
Q7.ThinkPadはどこでデザインされているのか?
→日本IBMの大和事業所のようです。
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Cupertino/2871/column/200/colm_210.htm
IBM大和事業所見学会(1)
Q8.IBM版リブレット(All new PC110)はどうなの?
→ユニバーサルデザイン重視のIBMの方針が変わらない限り、試作はともかくとして
製品レベルでは出てこないと私は予想します。超小型はPDAという方針かもしれません。
Q9.銀パソは何故出ないの
→銀パソは各社から登場しましたが、結果的にソニーの銀パソとその他の銀パソという
のが実態だった気がします。銀パソを単純にマグネシム合金を使ったボディと考えると
パソコンでマグネシウムを使ったのはIBMが最初ぐらいのはずです。1993/05のTP220
がそれです。当時はマグネシウムの調達、加工で大変だったという話もどこかで見かけ
ました。マグネシウムの加工は結構大変で、最近も携帯電話のケースの加工工場で
爆発事故も起きています。それはさておいて、TP220の後のマグネシム採用はX20/TPi
1620です。X20では体カバー部分にチタン複合素材、底面部分にマグネシウム合金、
パームレスト部分にカーボン・ファイバーとその部位に合った素材(例えばパームレストで
メタルを使うと傷が付き易い)が使用されています。そこら辺がIBMのこだわりでしょう。
なお、チタン、マグネシムを使っていても塗装はされています。「黒」についてのこだわりが
IBMにある限り、メタル素材はケースに使用されても塗装ではシルバーのマシンは無さそう
です。
Q10.赤いポッチは何なの?
→ThinkPadのデザインの象徴にもなっている赤いポッチは飾り、アクセントではなくて
外付けマウスの代わりになるスティックタイプのポインティングデバイスです。初心者に
取っ付きにくいという評価もありますが、慣れてしまえば相当便利です。私はスライド
パッドタイプとは相性が悪いため、必然的にノートパソコンはThinkPadしか使えない事
になります。なお東芝も一部のマシンを除いてスティックタイプのポインティングデバイス
(アキュポイントという名前で原理はIBMとは異なります)を搭載しています。VAIOや
ソーテック、三菱のマシンでもスティックタイプのデバイスが搭載された事があります。
余談ですが、このポッチのカバーは交換できるようになっています。ジャンクで入手した
TP720Cのカバーは黒色でした。最初は黒と赤の両方が予備としてついていたという
話をどこかで見た気がします。製品カタログでは赤ポッチですので最初から黒という訳
では無かったと思います。なおソーテックでは緑色のカバーだった記憶があります。
IBMの一部のデスクトップ機に付属していたスクロールポイントマウスでは青カバーでした。
Q11.ThinkPadのデザイン面の弱点は?
→デザイン・アイデンティティを大事にしてきたThinkPadの良さはそのまま弱点とも言えます。
シャープで格好良いと評価する人も居れば真っ黒ダサダサという意見の方もいます。
個人的にはソニーのようにモデルチェンジに合わせてボディカラーを変えてしまうのは軽薄
だと感じていますので、現状で構わないと思います。判る人だけが判ればいいの、って
ところです。「プロ(玄人)の道具」なので、それで良いでしょう。
後、ThinkPadのその時その時で他のマシンと共通のACアダプターがモバイルを考えた
時には弱点といえなくもありません。ウルトラスリム56Wは結構コンパクトで軽かったの
ですが、72W品は重たそうです。さすがに一部のモバイル機だけに特別のACアダプター
を用意するというのは最近はできないようですね。昔はTP220,230Csあたりは専用の
ACアダプターが用意されており、それらには例えばピンを本体に収納できるといった工夫
とかがされていました。パーツ共通化が進んだ今では信じられない話かもしれませんね。